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2026.02.20

金型管理

金型保管費は何年遡る?消滅時効と実務上の考え方

金型の無償保管問題については、ここ数年で是正の動きが進んできました。
私たちも何度か無償保管問題をブログで取り上げています。

金型の無償保管と定期棚卸しの費用負担 ― 今後整理しておきたい実務ポイント

金型保管と取適法|無償保管問題は大企業だけの話ではない

「これまで無償だった保管費を、今後は支払う」
という流れになったとき、必ず出てくるのがこの疑問です。

じゃあ、過去分はどうするのか?
何年分さかのぼって支払うのか?

これは実務上、非常に難しいテーマです。


単年分の算定はできる

まず、今年分・直近分については、比較的算定が可能です。

例えば、

  • 金型の個数

  • サイズ

  • 専有面積(㎡)

  • 保管方法(屋内・屋外)

などが分かれば、

  • ㎡単価 × 面積

  • 1型あたり○○円

といった形で算定できます。

問題は「それを何年分払うのか」です。


10年、20年前の実態を証明できるか?

たとえば、

  • 10年前、20年前に何型預かっていたか

  • その当時の保管条件はどうだったか

これを正確に立証できる会社は、実はそれほど多くありません。

記録が残っていないケースも多いでしょう。

だからこそ、

現実的な基準は何か?

という議論になります。


何年分支払うかの一つの基準:消滅時効(5年)

民法の時効制度

ここで実務上よく参照されるのが「消滅時効」です。

民法第166条第1項では、一般的な債権は

権利を行使できることを知った時から5年間
または権利を行使できる時から10年間

で時効により消滅するとされています。

民法第166条(債権等の消滅時効)の条文内容を示したスクリーンショット。債権は権利を行使できると知った時から5年、または行使可能時から10年で時効消滅する旨を規定。

民法第166条(債権等の消滅時効)
引用元:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_1-Ch_7-Se_3

金型保管費も民法166条1項の対象となる通常の債権ですので、
5年という期間が一つの現実的な基準になります。

重要:時効は“自動ではない”

ここで大事なのは、

時効は、債務者が主張してはじめて効力が生じる

という点です。

つまり、

  • 支払う側が「5年分だけ支払います」と主張する

  • それをもって過去分を整理する

というのは法的には成り立ちます。

一方で、「協力会社の経営を圧迫していた事実を考慮して、たとえば10年分で合意する」

こうした対応も当然可能です。

最終的には個別交渉になります。

消滅時効制度の本来の趣旨

消滅時効の趣旨は、

長期間請求されなかった債権については、
法的関係を早期に確定させる

というものです。

だからこそ「5年」という期間が設定されています。

この意味で、

  • 全く請求がなかったケース

  • 実態把握が困難なケース

では、

「5年分」を一つの基準として整理するのは合理性がある

と考えられます。

したがって、金型無償保管問題についても、時効制度が一つの基準になることは間違いないでしょう。


10年前から交渉していた場合は?

政府の動きは平成28年(2016年)から

金型保管問題については、

平成28年9月15日に経産省が公表した「未来志向型の取引慣行に向けて」を端緒として、ここから問題解決への動きが始まりました。(参考ページはこちら

それ以降、

  • 元請と保管費の協議を始めていた

  • 請求のやりとりをしていた

というケースも多いでしょう。
当社も、この頃から金型の所有者に対して、保管費の支払いをお願いする動きを取り始めました。

そうなると、10年以上前から、金型の所有者と、保管費用について交渉してきたという会社もいらっしゃるかと思います。
そういう場合でも、今から5年分を超える範囲は時効消滅の対象になってしまうのでしょうか。

時効の更新と猶予

消滅時効も一定の要件を満たす場合には、止まったり、あるいは、リセットされることがあります。
その要件についてはここでは詳しく触れませんが、例えば、裁判を起こして支払いを請求したりすることにより、時効はリセットされることがあります。

一方で、「保管費用を支払ってくれませんか」と交渉をしていたというだけでは法的には消滅時効を更新あるいは猶予する事由には該当しないことがほとんどでしょう。
そういう意味では、10年前から交渉していても、5年を超える範囲については消滅時効が完成していると判断されるケースが多いでしょう。

経緯を踏まえた整理の必要性

しかしながら、現実的な問題もあります。

発注主から継続的に仕事を受けている協力会社の立場で、
保管費用の回収のために発注主に対して裁判を起こすというのは、実務上ほとんど選択肢になりません。

理論上は、

  • 裁判上の請求

  • 支払督促

によって時効を更新することは可能です。

しかし、取引関係を維持しながらそれを行うことは、
協力会社にとって極めて高いハードルです。

結果として、

協力会社側が時効の更新措置をとることは、事実上困難であったケースが多いと考えられます。

  • 10年以上前から協力会社側は保管費の支払いを求めていた

  • 政府が2016年頃から是正方針を示していた

にもかかわらず、

時効が成立しているから5年分のみ支払う、という整理を行うことは、
形式的には法律に沿っていたとしても、取引の経緯を十分に踏まえた対応とは言いにくい場面もあるでしょう。

特に、長年にわたり保管負担をしてきた協力会社の立場を考慮すると、
より丁寧な整理や協議が望ましいケースも少なくないと考えられます。


法律の適用と信頼関係

消滅時効は、あくまで法的整理のための制度です。

しかし、金型保管問題は単なる債権債務の話ではなく、

  • 長期的な取引関係

  • 取引慣行の見直し

  • 将来の健全な関係構築

といった要素も含みます。

そのため、

  • 5年を一つの基準としつつ

  • 過去の協議経緯や実態を踏まえ

  • 必要に応じて柔軟な解決を図る

といった姿勢が、結果的に双方にとって望ましい整理につながる可能性があります。


結局は、誠実な整理が必要

金型保管費の問題は、

  • 法律の問題であり

  • 取引条件の問題であり

  • そして何より、信頼関係の問題でもあります。

時効という法制度は、整理のための一つの基準です。
しかし、それだけで結論が決まるわけではありません。

過去の経緯はどうだったのか。
協議は行われていたのか。
保管側にどのような負担が積み重なっていたのか。

そうした事情を踏まえたうえで、

  • どの範囲まで整理するのが妥当か

  • 将来に向けてどのような関係を築きたいのか

を丁寧に話し合うことが、結果として最も健全な解決につながります。


まとめ

  • 単年分の保管費は算定可能

  • 何年分さかのぼるかが実務上の争点

  • 一つの基準として「消滅時効5年」がある

  • ただし、過去の協議や請求の経緯によって事情は異なる

  • 最終的には、双方が納得できる形での柔軟な整理が重要

無償保管問題は、単なる過去清算ではありません。
これからの健全な金型管理体制をどう構築するか、という前向きな整理でもあります。

法律を基準としつつも、
これまでの経緯を踏まえ、
将来に向けたより良い協力関係を模索する。

その視点が、これからの金型管理には不可欠だと考えます。