1. 経産省も推奨する「一元管理」
経済産業省は近年、金型の適正管理を推進するために「デジタル化」と「システムによる一元管理」を強く求めています。
(※この点については以前のブログ「金型管理のデジタル化について」もご参照ください。)
経産省の方針では、まず金型台帳をデジタル化し、そのうえで「システムによる一元管理」へと移行することが推奨されています。
一見すると専用のシステムが必要に思えますが、当社ではクラウド化によって十分に実現可能だと考えています。
つまり、ここでいう「システムによる一元管理」とは、私たちにとっては「クラウドによる管理」とほぼ同義です。
デジタル化は重要な第一歩ですが、それだけでは管理精度を保つには限界があります。
今回はその理由と、クラウド化がもたらす効果についてお話しします。
2. デジタル化だけでは不十分な理由
デジタル化とは、紙の台帳をExcelなどに置き換えることを指します。
現在では多くの企業がExcelなどで金型台帳を管理していると思います。Excelなどで作られた台帳は紙のものと比べると編集や検索が容易で格段に便利になりました。
しかし、Excel管理にも弱点があります。
それは「情報の不整合」が発生しやすいことです。
デジタルデータである以上、そのデータはコピーされながら活用されます。
複数の担当者が同じ台帳をコピーして個別に更新していると、それぞれのファイルで内容がずれていきます。
結果として、「どれが最新かわからない」「現場とデータが一致しない」といった状況に陥ります。
これを防ぐために、
-
更新担当者をひとりに限定する
-
社内サーバー(NAS)にマスターファイルを置く
といった方法を取る企業もあります。
しかし、これでは更新作業が煩雑になったり、利便性が落ちてしまいます。
つまり、更新担当者を限定すると、
「更新依頼を出すのが面倒」
「担当者が忙しくて更新されない」
となることが予想されます。
また、社内NASにデータがある場合でもこれを同時に編集することはできません。その結果、複数人で棚卸しをするという時にはそれぞれダウンロードしたデータを編集して後で統合する必要がある等面倒な作業が増えます。
また、社内NASには原則として社内ネットワークからしかアクセスできないという限界があり、例えば顧客から預かってる金型の情報を顧客と共有するということもできなくなります。
この構造的な問題を根本的に解決できるのが、次に説明する「クラウド化」です。
3. クラウド化で実現する“みんなで管理する台帳”
クラウド化とは、複数の人が同じファイルにWeb経由でアクセスし、リアルタイムに更新できる状態のことです。
GoogleスプレッドシートやOneDrive上のExcelなどがその代表例です。他にはNotionやConfluenceのような社内Wikiツール、ナレッジ共有ツールなどで管理する場合もクラウド化している場合に該当すると思います。
ちなみに、私たちフジイコーポレーションでは、Notionで金型台帳を作り管理を行っています。
クラウド化のメリットは主に下記の点にあると考えています。
-
分散管理が可能になる
クラウド化をしている場合、全員が一つのファイルを共有し、誰かが行った更新は即座に全員に共有されます。
そのため情報の不整合が起こらず、チーム全体で常に最新情報を共有できます。
誰か一人更新担当者を設けなくても情報の不整合が仕組み的に発生しないため、チーム全体で好きなタイミングで更新することが可能になり、分散管理が可能になります。
分散管理は、更新の負荷がだれか一人に偏る事態をなくすため、台帳が最新の状態に保たれやすくなります。 -
更新作業が一人で完結する
更新担当者に依頼する必要がなく、自分の判断でその場で更新可能することができます。
一般的に、誰かに更新を依頼するというのは、心理的に面倒な作業です。自分で更新したら10秒で終わる作業を他人にやってもらうために、どこをどう更新してほしいのか依頼するメッセージを作成したりするのは面倒です。こういう面倒な作業というのは必ずいつか行われなくなります。それが人間的な心理です。
一方で、クラウド化により、作業者が自分で更新してよくなると、他人に依頼しなくていい分、心理的なハードルが下がり、継続的な更新が自然と行われます。
結果として、
「更新の手間が減る → 情報が最新に保たれる → 管理精度が上がる」
という好循環が生まれます。
クラウド化は単なるITツールの導入ではなく、作業負担の分担という物理的な負荷の低減だけでなく、心理的にも更新の負荷が低減されることにより、更新が継続される仕組みです。
だからこそ、無理なく続けられる管理体制をつくることができるのです。
4. まとめ──「誰かが抱える管理」から「みんなで守る管理」へ
金型台帳をExcelでデジタル化することは確かに有効ですが、
それだけでは誰か一人に負担が集中する構造から抜け出せません。
クラウド化によって情報を一元化すれば、
-
作業の分散化
-
更新の自動共有
-
管理負荷の軽減
が同時に実現します。
つまり、これからの金型管理に必要なのは、
「誰かが抱え込む管理」から「みんなで更新できる仕組み」への転換です。
クラウド化は、金型管理を「個人の努力」から「仕組みの力」へと変えるための第一歩なのです。
デジタル化は大事ですが、それだけでは足りず、クラウド化も重要だということがご理解いただければ幸いです。
今後、私たちで行ってるクラウド化の実例などを紹介して、クラウド化も難しいものではないこと皆さんに伝えていければと思っています。