前回の続き
前回のブログでは、金型廃棄の際に、どのような書類を証拠書類として使うべきかという点について、
- 極力、スクラップ回収業者などが発行する引取証明書を活用する
- トレーサビリティが必要な理由があるなら、金属リサイクル伝票を優先して活用する
- 上記2つのどちらでも足りず、マニフェストでなければならない理由があれば、マニフェストを活用する
という提案をしました。
今回のブログでは、そもそもなぜ『金型の廃棄の際に何を証拠書類とするべきか』という疑問点が出てくるのか、その論点を整理しつつ、
上記の結論を導いた理由を解説します。
⚠ 注意点
本記事では、金型の廃棄が有価物として売却できるケースを中心に解説しています。
しかし、すべての金型が売却可能になるわけではありません。
状態や材質、市場性によっては、廃棄物として処理せざるを得ない場合もあり、その場合は廃棄物処理法の対象となり、マニフェスト制度の適用が必要になります。
本記事の目的は、
「金型の廃棄が有価物として取り扱われる場合、マニフェスト制度はどう考えるべきか?」
という点を整理するものであり、
“金型の廃棄=有価物の売却”と主張しているわけではないので誤解しないようお願いします。
また本ブログの内容は対象物が金型であることを前提にしています。金型以外のもの(例えば、自動車や家電製品など)は全く対象になっていないことにも注意してください。
前提の確認
議論を進めていくにあたり、まず前提となる知識を確認したいと思います。
マニフェストについて
まずマニフェストについて確認しておきます。
マニフェストとは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)第12条の3により定められています。
参考:e-Gov 法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
URL:https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000137#Mp-Ch_3-Se_1-At_12_3

正式には(法律上は)、『産業廃棄物管理票』といい、マニフェストというのは通称です。
産業廃棄物を適正に処理するのにもお金がかかります。
そのため、処理業者としては排出事業者からお金をもらって廃棄物を預かったあと、それを適正に処理せずに不法投棄するのが最も簡便に利益をあげることができます(当然、違法です)。
このように産業廃棄物には利益のために、不法投棄に流れやすい構造上の問題があります。
そこで、不法投棄を防止するために、排出事業者に対して自身が出した産業廃棄物が最後まで適正に処理されたかを確認する責任を負わせ、実際に監督する方法として産業廃棄物管理票制度、つまりマニフェスト制度が導入されました。
ここで明確にしておきたいのは、マニフェスト制度というのは、産業廃棄物を対象としたものである、という点です。
有価物の売却処分について
次の前提知識として、金型の廃棄の法的な性質を確認したいと思います。
金型というのは、基本的には鉄でできています。
そのため、その廃棄の際には、スクラップなどと同じく鉄くずとしてスクラップ回収業者が買い取ってくれることが多いです。
このように売却可能であるということは、価値が有るわけですので、これを有価物と呼びます。
重要なポイントとして、有償で他人に譲渡できる場合、それは「廃棄物」に該当しないため廃棄物処理法の適用を受けません。
有償で他人に譲渡できる場合に「廃棄物」に該当しないという点については、
環境省の出している環廃産発第 1303299 号 (平成 25 年3月 29 日)3ページ目、4(2)等でその見解を確認できます。

画像の出典:行政処分の指針(通知)環廃産発第 1303299 号 環境省
https://www.env.go.jp/hourei/add/k040.pdf
(最終アクセス:2025年11月27日)
上記の文書では、廃棄物の定義として、「廃棄物とは、(略)他人に有償で譲渡することができないために不要になったもの」としています。
つまり、逆に他人に有償で譲渡できる場合には、廃棄物に該当しないと判断することができます。
そして、廃棄物処理法、そして廃棄物処理法上の制度であるマニフェストは、廃棄物の処理を対象にした制度であり、
廃棄物の処理ではない、有価物の売却については廃棄物処理法は適用外となります。
したがって、金型の廃棄に際して、鉄くずとして買い取ってもらっているなら、その行為は廃棄物処理法とは全く関係ない行いなのです。
排出事業者の事情
最後の前提として、そもそもなぜ排出事業者がマニフェストを使いたがる事情について確認します。
処理業者側の皆さんにとっては、そもそもなぜ排出事業者がマニフェストを出したがるのかよくわからないこともあるかも思います。
この点について、私たちの経験や観測範囲での話にはなりますが、情報を共有したいと思います。
さて、金型の廃棄の際にマニフェストを必要とする排出事業者がいた場合、
おそらくほとんどのケースでは必要とする理由は、顧客や社内の経理部に「金型を廃棄するならば廃棄後にマニフェストを共有してください」と言われたからでしょう。
そして、ではなぜその顧客や経理部がマニフェストを要求しているのかといえば、
「ちゃんと捨てた証拠=マニフェスト」という固定観念があるからだと思います。
つまり、廃棄物処理法上の産業廃棄物管理票(通称 マニフェスト)を使用(あるいは流用)しなければならない理由は特になく、
廃棄の証拠として、マニフェスト以外のものを知らないのでとりあえずマニフェストを要求しているというのが実態ではないでしょうか。
(繰り返しになりますが、あくまで私たちの経験や観測範囲での話です。ただどこも同じような事情ではないかとは思っています)
たとえば金属リサイクル伝票では足りず絶対にマニフェストでなければならないというケースは遭遇したことがありません。
論点の確認
さて、上記までの前提を元に改めて、金型の廃棄の証拠書類に何を使うべきか?という議論に戻ると、
論点は2つあると思います。
- 有価物の売却の場面においてマニフェストを利用してよいのか。
- マニフェストの利用が可能だとして、マニフェストの利用が最良の選択なのか
という2つです。
今回のブログで、1について確認していきたいと思います。
2の論点については次回のブログで詳しく確認していきます。
有価物の売却の場面においてマニフェストを利用してよいのか。
疑問点
前提のところで確認したように、
- マニフェストは廃棄物処理法の制度
- 有価物の売却は廃棄物処理法の対象外
です。
ここで一つの疑問が生じます。
廃棄物処理法が適用されない金型を廃棄(有価物の売却)の際に、廃棄物処理法上のマニフェスト制度を活用することは法的に、あるいは、実務的に認められるのか?ということです。
廃棄物の管理のためのマニフェスト制度を、制度が想定していないところで活用することに問題はないのか?という論点です。
回答
この点については有価物の売却に際してもマニフェストを利用することは可能です。
その理由は、まず廃棄物処理法、またその他の法律も、マニフェスト制度を廃棄物処理法の範囲外で使うことを禁止していないことです。
廃棄物処理法の範囲外なので、有価物の売却の際には、マニフェストを発行する義務はありませんが、その一方で勝手に発行する分には法律は関知しないということです。
実際、地方自治体、産業廃棄物にかかわる公益法人や、業界団体等、一定の権威をもった団体が公開している資料からもそのことが確認できます。
岐阜県の例
たとえば、岐阜県は「産業廃棄物管理票(マニフェスト)交付等状況報告書Q&A」のQ8にて、有価物の場合にも便宜的にマニフェストを使用することが認められる前提の見解を示しています。

画像の出典:産業廃棄物管理票(マニフェスト)交付等状況報告書 Q&A 岐阜県公式ホームページ(廃棄物対策課)
https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/398610.pdf
(最終アクセス:2025年11月27日)
公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センターの例
また公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターが運営する電子マニフェストJWNETのHPにもマニフェストの発行義務がない場合にもマニフェストの活用を認める趣旨の記述があります。

画像の出典:広域認定制度や一般廃棄物等における運用 | 公益財団法人 日本産業廃棄物処理振興センター
https://www.jwnet.or.jp/jwnet/practice/apply/kouiki/index.html
(最終アクセス:2025年11月27日)
日本鉄リサイクル工業会の例
他にも、日本鉄リサイクル工業会が発行する「金属リサイクル伝票仕様上の遵守事項」も、
マニフェストの発行義務がない場合にマニフェストを活用することが認められてることを明言しています。
(同資料中の「専ら物」については、説明を割愛しますが、廃棄物ではあるもののリサイクル可能な性質を持つ特定の廃棄物で、これを処分するときはマニフェストの発行義務がありません)。

画像の出典:金属リサイクル伝票使用上の遵守事項 一般社団法人日本鉄リサイクル工業会
https://www.jisri.or.jp/topics_files/h24topics/20120903kinzoku-junshu.pdf
(最終アクセス:2025年11月27日)
[補足]
上記の岐阜県の例と日本産業廃棄物処理振興センターの例については、株式会社ミズノ様のブログ記事をきっかけに存在を知りました。同社のブログ記事は有価物の際に、マニフェストを発行していいのかという点について分かりやすく整理されており、非常に参考になる内容でしたので、この場を借りて敬意を表します。
有価物にマニフェストは発行してOK? | 株式会社ミズノ
https://www.e-mizuno.co.jp/press194/
(最終アクセス日 2025年12月5日)
なお、今回のブログ記事を書くにあたり、当社は上記岐阜県のページと公益社団法人のページを直接確認し、当社の責任において今回の論点の回答を証明する傍証として採用しています。したがって、今回のブログ記事の内容については当社が責任を負っており、万一内容に誤りがあったとしても、当社の責任であり、株式会社ミズノ様は何らの責任を負っていません。
まとめ
今回は、そもそもなぜ『金型の廃棄の際に何を証拠書類とするべきか』という疑問点が出てくるのか?という点について、
- 有価物の売却の場面においてマニフェストを利用してよいのか。
- マニフェストの利用が可能だとして、マニフェストの利用が最良の選択なのか
という2つの論点があることを示しました。
そのうえで、1の論点については、マニフェストを利用してよいという結論を示しました。
次回のブログでは、2の論点について詳しく確認していきたいと思います。
次回のブログはこちらから!

