前回と前々回のブログにて、金型の廃棄とマニフェストの関係についてみてきました。
前々回のブログ : 金型の廃棄とマニフェスト①
前回のブログ : 金型の廃棄とマニフェスト②
金型廃棄の際に、どのような書類を証拠書類として使うべきかという点について、
- 極力、引取業者が出す引取証明書等を活用する
- トレーサビリティが必要な理由があるなら、金属リサイクル伝票を優先して活用する
- 上記2つのどちらでも足りず、マニフェストでなければならない理由があれば、マニフェストを活用する
という提案をしました。
前回のブログでは、「金型の廃棄の際に何を証拠書類とするべきか?」という疑問点がなぜ生じるのか、
どこに論点があるのかを確認しました。
論点としては、
- 有価物の売却の場面においてマニフェストを利用してよいのか。
- マニフェストの利用が可能だとして、マニフェストの利用が最良の選択なのか
という2つがあると考えており、
このうちの1の論点については前回のブログで検討し、
有価物の売却の場面においてマニフェストを利用することは問題ないことを確認しました。
今回のブログでは2の論点、すなわち、マニフェストが利用可能だとして、それが最良の選択なのか?という点について検討します。
⚠ 注意点
本記事では、金型の廃棄が有価物として売却できるケースを中心に解説しています。
しかし、すべての金型が売却可能になるわけではありません。
状態や材質、市場性によっては、廃棄物として処理せざるを得ない場合もあり、その場合は廃棄物処理法の対象となり、マニフェスト制度の適用が必要になります。
本記事の目的は、
「金型の廃棄が有価物として取り扱われる場合、マニフェスト制度はどう考えるべきか?」
という点を整理するものであり、
“金型の廃棄=有価物の売却”と主張しているわけではないので誤解しないようお願いします。
また本ブログの内容は対象物が金型であることを前提にしています。金型以外のもの(例えば、自動車や家電製品など)は全く対象になっていないことにも注意してください。
マニフェストの利用が最良の選択か
さて、前々回、前回のブログでも確認してきたように、金型の廃棄の場合には、スクラップなどと同様に、回収業者によって有料で買い取ってもらえることが多いです。
つまり、金型の廃棄の場合、「廃棄」とは言いつつ、実際には有価物の売却である場合が多いです。
そのような場合、金型の廃棄の証拠書類として使えるものは下記の3つがあるかと思います。
なおこれらについては前々回のブログで詳しく説明したので、それぞれがどのような書類かはこちらを参照してください。
- 運搬業者などが発行する引取を証明する書類(以下、引取証明書等)
- 金属リサイクル伝票
- マニフェスト
引取証明書等が優先な理由
私たちは、極力、引取証明書等を使うのがいいだろうと考えています。
なぜなら、基本的にはそれで必要十分だからです。
引取証明書等とそれ以外の違い
金属リサイクル伝票やマニフェストと、引取証明書等の違いは、トレーサビリティの有無です。
つまり、引取証明書等が引取りをした業者に確かに渡ったことを証するだけなのに対して、
金属リサイクル伝票やマニフェストは、引取業者から、さらにどこの処理業者に渡ったか、最終的にどういう処分をされたかを追跡できます。
このトレーサビリティが、金属リサイクル伝票やマニフェストの利点です。
トレーサビリティが本当に必要か?
さて、では金型の廃棄の場面でトレーサビリティは必要でしょうか?
産廃処理にトレーサビリティが必要な理由
廃棄物処理法がマニフェスト制度という制度を作った理由は、産業廃棄物が不法投棄されやすい構造上の理由があるからです。
産業廃棄物の引き取り業者はゴミの排出者からお金をもらって、産業廃棄物を引き取ります。
引き取った産業廃棄物は適正に処理する必要がありますが、その適正な処理をするためには費用がかかります。
もし、短絡的に利益だけを追求しようと思うと、費用のかかる適正な処理をせず不法投棄をして無料で済ませてしまいます。
このように、産業廃棄物においては利益を追求したときに不法投棄をする動機が発生してしまうという構造的な問題があります。
だからこそ、排出者が出した廃棄物が、どのように処理されたかを追跡確認できるようにして、業者による不法投棄が起こらないように監視するというのが、マニフェスト制度の目的です。
有価物の場合
一方で、金型の廃棄のように有価物の場合はどうでしょうか。
引取業者は、排出者にお金を払ってその鉄を引き取っています。
これを元手に稼ぐためにはこれをシュレッダーやギロチンシャーなどで適切な形状に処理する等した後、電炉メーカー等に持ち込み売却する必要があります。
つまり、適正な処理をしなければ、引取業者は利益を上げられません。
産業廃棄物のように、不法投棄をしたら1円にもならず、排出者に支払ったお金分、損失が出てしまいます。
このように、有価物の場合には、産業廃棄物とは異なり、基本的に、構造的な不法投棄への動機づけがありません。
したがって、少なくても不法投棄抑制という観点からは、金型の廃棄の際に、トレーサビリティは必要ありません。
何のためのトレーサビリティ?
もし、金型の廃棄の際に、「マニフェストが証拠書類として必要」という場合、それは何のためなのでしょうか。
先述のようにマニフェストや金属リサイクル伝票の利点はトレーサビリティがあることです。
しかし、上記のように有価物の場合なら、基本的に不法投棄される心配はありません。
現実には、多くの場合、トレーサビリティは必須ではないでしょう。
「金型の廃棄をする場合、証拠書類としてマニフェストを用意すること」というルールがある会社があったとして、
その会社は本当にマニフェストの中身を確認しているのでしょうか?
個人的にはそのような会社は稀だと思います。
上記のようなルールがあっても、現実には、マニフェストがあるかないかだけを確認しており、
マニフェストに書かれた内容を確認してしっかりと処理経路が適正かちゃんと確かめているということはほとんどないのではないでしょうか。
しかし、当然ながら、内容を確認しないなら、マニフェストの持つトレーサビリティも何ら意味を持ちません。
であれば、最初からトレーサビリティを持つ資料を用意する必要もないのではないでしょうか。
金属リサイクル伝票やマニフェストのもたらす負荷
また、トレーサビリティを確保するということは、少なからず市場に負荷をかけています。
つまり、その金型の廃棄にかかわった運搬業者や処理業者は書類に記入し、それを排出事業者に送付しないといけません。
このような事務手続き上の手間を業者はかけてくれているということは、意識する必要があるでしょう。
前述のように、トレーサビリティが本当に必要だという場面は多くないと思います。
必要でない、活用されないトレーサビリティのために、業者に事務手続き上の負担をかけるというのは望ましいことではありません。
だから、引取証明書等優先
このように、マニフェストや金属リサイクル伝票がトレーサビリティのために処理業者などに、事務手続き上の負担を要求することを念頭に置くと、
トレーサビリティが必須ではないのに、マニフェストなどを使用するのは避けたほうがいいでしょう。
実際、廃棄の証明としては、引取業者が引取り時に出す「確かに受け取りました」という証明書で十分なはずです。
金属リサイクル伝票とマニフェスト
さて、引取証明で足りるなら極力、引取証明書等を使うべきという話をこれまでしてきました。
しかし、一方でトレーサビリティをもつ金属リサイクル伝票やマニフェストでなければならない、という場合もあるでしょう。
具体的には、その金型に重要な機密があり、その機密が漏れることなく処理されたことが確認されないとならないというような場合です。
また、例えば公的な補助金が関係しており、その補助金のルール上廃棄の際にはトレーサビリティがある書類がなければならないと定められており、
排出事業者の意思に関係なくトレーサビリティを持つ書類を利用するしかないということも考えられます。
同じようなケースでは、顧客からの強い要望でそうするしかない、というケースもあるでしょう。
では、金属リサイクル伝票とマニフェストならどちらを利用するべきか?という点について少し考えてみたいと思います。
金属リサイクル伝票優先
この点については、すでに結論を示しているように金属リサイクル伝票を優先するのがよいのではないかと思っています。
これは、マニフェストが廃棄物処理法上の制度で、本来は廃棄物の処理の際に活用されるものだからです。
前回のブログでも確認したように、確かに、有価物の場合でもマニフェストは利用可能です。
しかし、それは利用可能というだけで、利用するのがベストか?というと話は別になります。
法律上の制度を、その法律の枠外で利用することは混乱を生みやすいため、その点で懸念があります。
また、現実的な問題として生じるのは、廃棄物の処理の際にだしたマニフェストと、有価物の場合のマニフェストが混同されやすいという点です。
前者の場合、廃棄物処理法上様々な義務が生じます。
たとえばマニフェストの保管は委託契約書とともに保管することが義務付けられています。
しかし、有価物の場合、廃棄物処理法は関係ありませんので、このような義務はありません。
しかし、紙自体は同じものを使っており、外見的には見分けがつきにくいです(内容を確認すれば、後者のほうには「有価物の処理」等特記事項があるとは思いますが)。
外見上同じ書類をかたや廃棄物処理法上にのっとって、かたやその枠外で活用するというのは、管理上混乱が起きやすいところです。
内部監査の際に、マニフェストが委託契約書と一緒に保管されていないことを指摘されたけど、
結局それは有価物として処理した際のものだったから問題なかったという事例を聞いたことがあります。
結果的に問題はなかったですが、最良の対応としてはそもそもそのような混乱がおきないようにすることに思えます。
そうなると、
金型の廃棄など金属リサイクル伝票が利用可能な場合には、金属リサイクル伝票を優先して利用し、
廃棄物の廃棄の場合とは差別化して管理上わかりやすいようにする、という取り組みが望ましいのではないでしょうか。
マニフェストを利用する場合
これまで述べたように、引取証明書等や金属リサイクル伝票を活用できない理由がある場合、マニフェストを利用することになります。
顧客から強い要望があった場合などではマニフェストを活用することになるでしょう。
この場合、注意したいのが、有価物の処分の場面で発行したマニフェストであることを明確にしておくことです。
- 廃棄物処理の場面で発行したマニフェストと別で保管し混ざらないようにする。
- マニフェストの備考などに、有価物の処理で利用したことを明記する等、廃棄物処理法の枠外で便宜的に活用したことを明示する
などの対応が不可欠です。
まとめ
金型の廃棄は、同じ「廃棄」と言っても
廃棄物として処理するケースと
有価物として売却するケースでは、求められる書類も考え方もまったく異なります。
特に後者の「有価物の売却」では、
廃棄物処理法の枠外であるにもかかわらず、
慣習的にマニフェストが求められるケースが少なくありません。
しかし本記事で見てきたように、
-
有価物には構造的な不法投棄インセンティブがない
-
多くの場合、トレーサビリティは必須ではない
-
マニフェストは制度趣旨と異なる使い方をすると混乱を招く
-
不要な手続きは、排出者・処理業者の双方に負担となる
という点から考えれば、“まずは引取証明書で十分かどうかを検討する” のが合理的です。
そして、やむを得ずトレーサビリティが必要な場合は、
-
金属リサイクル伝票を優先
-
どうしても必要な場合にのみ マニフェスト
という順で書類を選ぶのが、現場にとっても管理部門にとっても最も整合的であり、混乱や負担を最小化できる方法だと考えています。
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