プレス機のフライホイールがエネルギーを蓄えるとは?
プレス機の説明を見ると、
「フライホイールはエネルギーを蓄積する役割を持つ」
と書かれていることがよくあります。
たとえば、
「プレス機械において、モーターは、回転を与えることができるが、プレス機械が必要とする多量のエネルギーを保有することができない.そこで、フライホイール(はずみ車)を利用して、モーターの回転エネルギーをフライホイールに蓄積してクラッチを介して、そのエネルギーをクランク駆動に伝達する」
—山口文雄、鰐淵淳、小渡邦昭(1993)『基本プレス金型実習テキスト』日刊工業新聞社、p.22(下線は引用者による)

説明としては正しいのですが、
この一文だけで具体的なイメージがすぐに湧くかというと、少し分かりにくいと感じる方も多いのではないでしょうか。
現代の生活では、バッテリーや蓄電池が身近にありますが、
こういったものは、普段から充電を行うためエネルギーをためてるという実感が得やすいように思います。
しかし、プレス機に使われているフライホイールは言ってみればただの鉄の塊です。
この物体がどのようにエネルギーを貯めることができるのかイメージがつきにくいところがあるように思います。

画像の出典:プレス機械の構成(前編) | 株式会社エヌテック
https://ntec-jp.com/2449/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E6%A9%9F%E6%A2%B0%E3%81%AE%E6%A7%8B%E6%88%90%EF%BC%88%E5%89%8D%E7%B7%A8%EF%BC%89/
(最終アクセス:2026年01月05日)
エネルギーにはいろいろな形がある
フライホイールのエネルギーを理解するうえで重要なのはエネルギーにも色々あるということを改めて認識することです。
つまり、エネルギーには、電気エネルギーや熱エネルギーだけでなく、運動によるエネルギーも存在します。
フライホイールが持っているのは、この運動エネルギーであり、中でも、回転による運動エネルギーです。
バッテリーのイメージから外れて、「回転しているものはエネルギーを持っている」という認識をすることが重要です。
フライホイールはモーターからトルクを受けて回転します。
モーターが回転体に仕事を与え続けると、フライホイールの回転速度は次第に高くなっていきます。
このフライホイールが回転している状態こそが、回転による運動エネルギーを有している状態です。
回転しているという状態そのものがエネルギーを持っている
回転体が持つ運動エネルギーは、
慣性モーメントI
と角速度ωを用いて、
と表されます。
この式が示しているのは、
フライホイールが持つエネルギー量Eは、
-
質量や形状によって決まる慣性モーメント
-
回転速度
によって決まるということです。
少し視点を変えると、フライホイールの持つエネルギーEはモータからの仕事に影響を受け徐々に上昇していきます。
一方でフライホイールの慣性モーメントIは回転中も基本的に一定です。
となると、エネルギーEが大きくなって、慣性モーメントIが変わらないのであれば、角速度ωが上昇していくしかありません。
このことは、公園にある遊具や、遊園地のコーヒーカップで、どんどん回していくとどんどんスピードがあがっていくという経験則からも理解できると思います。


重要なのは、
回転しているという状態そのものが、エネルギーを持っている状態であるという点です。
止まっているフライホイールには回転の運動エネルギーはありませんが、
回転しているフライホイールは明確にエネルギーを保持しています。
「エネルギーをためる」とはどういうことか
さて、フライホイールがエネルギーを持っており、それが回転の運動エネルギーであることを説明しました。
もう一つ重要なのが慣性の法則です。
モータから供給されたエネルギーは、慣性の法則により、理想的な条件では、与えられたエネルギーは失われず保存されます。
比較的小さいエネルギーでもモータから供給される限り、徐々にフライホイールに回転エネルギーとして蓄積されていき、その蓄積は回転スピードの上昇という形で観測されます。
実際の機械では、摩擦や空気抵抗、負荷などによってエネルギーは徐々に失われます。
そのため、モーターを止めれば回転は次第に減速し、最終的には停止します。
しかし逆に言えば、
摩擦などで失われるエネルギーよりも、モーターから供給されるエネルギーの方が大きければ、回転は維持され、あるいはさらに速くなるということでもあります。
つまり、モータから供給されるエネルギーが小さくても時間をかければ、徐々にエネルギーが蓄積されて回転が早まっていきます。
比較的小さなモータの出力でも、一定以上の出力であれば時間をかけてフライホイールを高速回転させることができ、この回転が速くなった状態が、エネルギーをため込んだ状態に他なりません。
なぜプレス機にはフライホイールが使われてきたのか
ここで、プレス機になぜフライホイールがあるのか?という話につなげたいと思います。
クランクプレスでは、モーターの回転運動を上下運動に変換して加工を行います。
このとき、1ストロークの中で必要なエネルギー量は一定ではありません。
-
スライドが上下している大半の区間では負荷は小さい
-
材料を実際に加工する瞬間には、大きなエネルギーが必要になる
プレス機が大きなエネルギーを必要とするのは、
ストロークの中のごく限られた瞬間だけです。
一定の出力で回り続けることを得意とするモーターにとって、
このような負荷のかかり方は効率が良いとは言えません。
つまり、加工に必要なエネルギーを常に出していると、ほとんど負荷がかからないスライドの上下の時はそのエネルギーは無駄になり、電気代などがムダにかかってしまいます。
一方で、スライドの時の負荷が小さいときに出力をあわせると、加工ができません。
そこで、モーターが時間をかけて供給したエネルギーを
フライホイールに回転エネルギーとして蓄え、
加工の瞬間にまとめて使う、という仕組みが必要になるのです。
一定の出力で仕事をしたいモーター側の事情と、実際には加工時に大きなエネルギーが必要でそれ以外の時は小さいエネルギーでいいというプレス加工の事情、
この2つを調整しているのがフライホイールなのです。
逆に言うとモーターが出力を自由に調整できるのであれば、フライホイールはいらないのです。
実際、トルクや速度などを調整できるサーボモーターをつかったサーボプレス機においては、フライホイールはありません。
フライホイールの役割を理解すると構造が見えてくる
フライホイールは、単なる重たい円盤ではありません。
-
回転エネルギーを一時的に蓄える
-
エネルギーの供給と消費の時間差を埋める
-
プレス加工という負荷特性に合わせた合理的な構造
こうした役割を担っています。
「フライホイールはエネルギーを蓄積する」
という教科書的な一文も、
ここまで整理すると、より具体的で納得感のある説明として見えてくるのではないでしょうか。
プレス機は、
エネルギーの使われ方に合わせて構造が決められている機械です。
フライホイールは、その考え方を象徴する存在だと言えます。
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