プレス加工は機械加工なのか?
製造業の世界には、「機械加工」という言葉があります。
また私たちは普段プレス加工を多く行っている会社です。
このブログでも、プレス機について説明したブログがいくつかあります。
プレス加工も、プレス機という機械を使って金属を加工しています。
そう聞くと、
機械を使って加工しているのだから、機械加工か?
と考えてしまうことがあります。実際、言葉だけみたらそう解釈するほうが自然ですらあります。
しかし、製造業の世界では
プレス加工は機械加工には含まれません。
これは現場の感覚論ではなく、
言葉の定義と、その定義が生まれた背景の話です。
「機械加工」は字面どおりの意味ではない
「機械加工」という言葉を、字面だけで読めば、
-
機械で行う加工
= 機械加工
と解釈するのが普通でしょう。
ただし、実際の工業分野における「機械加工」は、
そういう意味では使われていません。
機械加工とは、
-
旋削
-
フライス加工
-
穴あけ
-
研削
などに代表される、
材料を削って形を作る加工を指します。
つまり、
-
「機械を使うかどうか」ではなく
-
「材料を除去するかどうか」
が、機械加工かどうかを分ける基準になっています。
なぜこんな定義になったのか
この違和感は、
言葉の成立過程を知るとかなり解消されます。
そもそも「機械加工」という言葉は、日本でゼロから作られた概念ではありません。
欧米で成立した machining という概念を、日本語に訳した結果として
「機械加工」という訳語が当てられ、それがそのまま定着しました。
そして、おそらくその machining という言葉自体が、旋盤やフライス盤というような削るタイプの加工と関連して生まれたのでしょう。
それまで手作業で行っていた削る加工が、機械化されたことをもって、machining と呼ぶようになり、その和訳として機械加工という言葉が生まれたものと思われます。
当時、区別すべきだったのは、
-
機械を使うかどうか
ではなく -
手で削るか、機械で削るか
だったわけです。
その結果、
-
切削・研削などの「削る加工」
= machining
= 機械加工
という意味が固まりました。
プレス加工が機械加工に含まれない理由
一方で、プレス加工はどうでしょうか。
プレス加工を含む塑性加工では、
-
材料は基本的に除去しない(抜き加工などもありますが)
-
体積保存が前提(同上)
-
材料を変形させて形を作る
-
加工硬化、割れ、しわなどが問題になる
など、前提条件が機械加工とはまったく違います。
機械加工に共通するのは、
-
切りくずが出る
-
工具摩耗が支配的
-
切削条件・剛性・びびりが重要
といった「材料除去」に関する共通性です。
この両者を
「機械を使うから」という理由だけで同じ定義に押し込めてしまうと、
-
技術的な共通点がほとんどない
-
分類として何も説明できない
-
議論や整理がやりにくくなる
という、不便な分類になってしまいます。
定義は「正しいか」より「便利か」
ここで重要なのは、
定義とは、真理を表すものではなく
世界をうまく整理するための道具だということです。
たとえば数学でも、一般的な素数の定義では 1 は素数に含まれません。
しかし、1 を素数に含めた定義をすることも理屈の上では可能です。
ここで重要なのは、その定義が便利か?という視点です。
定義自体は自由にできるので、素数に1を含めることも可能ですが、その定義が便利かは全く別の問題です。
実際、素数に1を含んでしまうと素因数分解の一意性が壊れて不便になってしまいますし、逆に1を含んだことによるメリットは特にないようにおもいます。
だとしたらわざわざ1を素数に含めても意味がありません。
そういう事情もあって、一般的には「1は素数に含めない」という定義が採用されています。
機械加工も同じで、「機械加工」という言葉の定義をその定義であることが便利かという視点から考えておく必要があります。
実際、
-
機械加工=材料除去加工
-
プレス加工=塑性加工
と分けておいた方が、
圧倒的に話が通じやすく、実務的に便利なのです。
字面と定義が違う言葉は珍しくない
字面と厳密な定義がズレている言葉は、実は珍しくありません。
法律用語の「善意」もその一例です。
日常語では「善い心」を意味しますが、
法律では単に 「知らなかったこと」 を指します。
人格的に善良かどうかは関係ありません。
それでも法律の世界では、誰も困っていません。
その定義が、その世界では一番便利だからです。
いまさら変える理由もない
「機械加工」という言葉も、
-
欧米由来の概念が
-
日本語に訳され
-
教育・規格・業界で定着した
という歴史があります。
今さら別の呼び方(たとえば「除去加工」)に置き換えても、
得られるメリットはほとんどありません。
字面に多少の違和感はあっても、
現場ではちゃんと意味が通じている。
それなら、それで十分だという話です。
おわりに
プレス加工は機械加工ではありません。
それは価値の上下の話ではなく、
性質が違いすぎるから、きちんと分けているだけです。
言葉の定義には、
歴史と実務の積み重ねがあります。
字面だけで引っかかる違和感も、
背景を知れば「まあ、そういうもんだよね」と
自然に腑に落ちる。
製造業の言葉は、たいていそうやってできています。
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