製造業における生成AI活用の現実解―「メール対応」にこそAIを使うべき理由―
はじめに|AIはホットだが、使いどころは難しい
生成AIは、いまや非常に注目度の高い技術です。
ChatGPTをはじめとして、文章や画像、プログラムコードを生成できるAIが次々と登場し、「仕事が変わる」と言われています。
一方で、「では製造業でどう使うのか?」と考えると、意外と難しいと感じている人も多いのではないでしょうか。
生成AIは、文章や画像は作れても、現場で行動してくれるわけではありません。
工場のラインに立って作業を補助したり、直接機械を操作したりする用途には、現時点ではなかなか使いづらいのが実情です。
もちろん、
-
機械を動かすためのプログラム作成を補助する
-
マニュアルや手順書を作る
といった活用方法はありますが、これらについてはまた別の機会に考えたいと思います。
では、製造業において、生成AIがもっとも力を発揮しやすいのはどこか。
それは、工場の中ではなく、PCに向かっている時間が長い仕事――
具体的には、営業・事務・管理といった領域だと考えています。
製造業でAIを導入するなら、まず「メール」
その中でも、もっとも導入しやすく、効果を実感しやすいのがメール対応です。
「AIにメールを書かせる」という使い方は、技術的なハードルも低く、今日からでも始められます。
ただし、よく聞く意見として、
プロンプトを考える時間を含めると、
結局自分で書いた方が早いのでは?
という声があります。
これは、ある意味で正しい指摘です。
純粋に1通のメールを書き上げる時間だけを見れば、最初から自分で書いた方が早いケースも多いでしょう。
では、それでもなお、製造業でAIをメールに使う意味はあるのか。
答えは「ある」と考えています。
理由は、AIが削減してくれるのは時間ではなく、心理的な負荷だからです。
メール対応がつらい本当の理由
営業や管理職など、外部とのやり取りが多い立場にいると、
「メールを返信する」という行為そのものが、想像以上の負担になります。
一日の終わりに、
-
未返信のメールが残っている
-
返した方がいいのは分かっている
-
でも、今日はもう無理
という経験は、多くの人に心当たりがあるはずです。
あるいは、
-
言いにくい内容を伝えなければならない
-
クレームだと分かっている
-
面倒なやり取りになりそう
そう思った瞬間に、メールを開くこと自体を先延ばしにしてしまう。
連絡は「早いほど良い」と分かっている。
返事を書こうと思えば、5分もかからない。
それでもできない。
これは、時間の問題ではありません。
メール対応には、
-
内容への心理的抵抗
-
相手との関係性への配慮
-
感情的な摩耗
といった、目に見えない負荷が乗っています。
そして一度対応が遅れると、
-
未返信であることが気になり
-
さらに心理的ハードルが上がり
-
最後は相手から催促が来る
という、よくある悪循環に陥ります。
これは個人の気合や根性の問題ではありません。
人間がメール対応をしている限り、必ず起きる構造的な問題です。
構造的な問題には、構造的な対策を
「しっかり対応しろ」「後回しにするな」と言うだけでは、何も解決しません。
こうした問題に対して必要なのは、
人間の弱さを前提にした仕組みです。
そこで登場するのが、生成AIです。
読みたくないメールでも、
-
とりあえず開く
-
AIに投げて要約させる
この2ステップなら、意外とできることが多い。
AIによってマイルドにされた要約を先に読むことで、
-
内容の全体像が分かる
-
何が求められているか把握できる
結果として、未知への不安が減り、原文も読みやすくなる。
そして、
これに返事を書いて
とAIに指示を出すだけで、たたき台が出てくる。
本質は「心理的に楽な仕事への変換」
AIが作った返信文は、完璧ではないかもしれません。
修正するために、結果的にそれなりのタイピングが必要になることもあるでしょう。
場合によっては、自分で書くのと同じくらいの作業量になるかもしれません。
それでも、決定的に違うのは脳みその負担です。
-
白紙から文章をひねり出す
-
相手の反応を想像しながら言葉を選ぶ
この「ゼロから考える作業」がなくなり、
-
出てきた文章を直す
-
評価・修正する
という、心理的に軽い作業に変わる。
この差は非常に大きい。
その結果、
-
処理できるメールの数が増える
-
仕事終わりの余力が少ない時間帯でも、もう一踏ん張りできる
これこそが、製造業においてAIにメール作業を任せる本質的な価値だと考えています。
「AIの文章は誠意がない」という意見について
「顧客にAIで作った文章を送るのは誠意がないのでは?」
こうした意見も、理解できなくはありません。
しかし、本当に顧客が求めているのは何でしょうか。
多くの場合、それは、
-
迅速な連絡
-
状況の共有
-
次のアクションの明確化
です。
人間が一人で考え込んで返信が遅れるより、
AIを補助として使い、早く・的確に返事が来る方が、顧客にとって価値が高いケースは少なくありません。
「誠意=手書き」という話に似ています。
確かに、場面によっては手書きが適していることもある。
しかし、日常業務の連絡をすべて手書きで送られたら、正直困ります。
儀礼を重視すべき場面と、
仕事を迅速に回すための連絡は、明確に別物です。
後者においては、迅速さを構造的に担保できるAIは、十分に有用な道具です。
おわりに|時間ではなく「心理的負荷」で評価する
生成AIの価値を、
-
何分短縮できたか
-
どれだけ作業時間が減ったか
だけで評価してしまうと、見誤ります。
製造業におけるAI × メールの本質は、
-
メール対応の心理的負荷を下げ
-
結果として対応スピードを上げ
-
仕事全体を滞らせない
ところにあります。
時間の節約ではなく、
人間の脳みそのリソースを節約する。
この視点で見ると、生成AIは製造業にとって、非常に現実的で頼れる道具だと言えるのではないでしょうか。

