社内NASではもう足りない?クラウド管理が製造業にも必要な理由
製造業の現場では、「Excelで作った台帳をNAS(社内サーバー)に保存しておく」という運用がよく見られます。
たとえば、金型の台帳を共有フォルダに置いて、更新が必要なときは社内NASからダウンロードして、編集して、またアップロードしなおす——そんなやり方は長年の定番です。
しかし、このやり方は本質的に不便さを抱えています。
そして、不便な管理方法で情報を最新に保ち続けるのはほとんど不可能です。不便な方法を採用している限り、必ず更新は停滞し、現実とデータの乖離が発生してしまいます。
私たちは金型の管理に際して、クラウド化をするべきだ、ということをこれまでも主張してきました。
これは社内NASでの運用では金型の台帳もほとんど必ず更新されなくなってしまうということを経験から知っているからです。
そして、これは金型の台帳に限りません。
どんな情報であっても、社内NASでの保管をしているファイルの更新は、クラウド化した場合に比べてより早く、より確実に更新が滞り始めます。
(クラウド化しても更新が滞ることは珍しくないですが、クラウド化していないとより一層滞るでしょう)
今回はなぜクラウド化は大事なのかを社内NASとの比較において考えてみたいと思います。
社内NASの特徴と限界
NAS(Network Attached Storage)は、社内ネットワーク上にあるハードディスクです。
ここに保存されたデータはそのNASにアクセスできる権限がある人であれば、だれでも閲覧できるため、会社内のデータ共有に活用されます。
しかも、NASにはいくつかの「限界」があります。
-
出先や他拠点から見られない
NASは基本的に社内ネットワークからしかアクセスできません。
そのためVPN等専用の方法を活用しないと、出張先や自宅から必要なデータを開けません。
結局、出社してからでないと作業できないことも多いです。
また、社内ネットワークからしかアクセスできないという性質上、社外の人間に共有できないという根本的な限界もあります。 -
同時編集ができない
NASの場合、同時に編集を行うことはできません。ファイル形式にもよりますが、誰かが編集中のファイルは、読み取り専用等でしか開けず、二人目は一人目の作業が完了するまで待たないといけません。つまり、複数人での同時作業ができないという非効率性を抱えています。これは複数人で棚卸しをするというような場合に非常に不便です。
同時編集ができないため、各人が元ファイルをコピーして担当範囲を更新し、最後にそれらの情報を統合するというような作業が別途発生します。 -
バックアップの問題
HDD等は必ずいつか故障します。故障時にはデータの喪失リスクがあります。
そのためバックアップが重要です。しかし、定期バックアップを取っていても、バックアップと次のバックアップの間のデータの喪失は免れませんし、完全な対策はありません。 -
コストが意外とかかる
ハードの購入費・更新費、電気代、メンテナンス。
専門知識が必要なため、結局は人件費も発生します。
クラウドの強みとは?
クラウドとは、「データをインターネット上の安全なサーバーに保管し、どこからでもアクセスできる仕組み」です。
代表的なものは Google スプレッドシート や Microsoft 365(OneDrive, SharePoint) など。
クラウドにすると、次のようなメリットがあります。
-
どこからでもアクセスできる
現場でも営業先でも、スマホからでも。常に最新データを確認できる。
特に見落とされがちなのは取引先などの社外の人間とも情報を共有できるというメリットです。 -
同時編集が可能
Excelではできなかった“リアルタイム共同作業”が可能。
誰がどこを編集したかも履歴で追え、完全な同時作業が可能になります。 -
バックアップ不要
自動で履歴が残り、誤って消しても復元できる。
基本的に故障によるデータ喪失のリスクはゼロとみなしてよいでしょう。 -
セキュリティが高い
二段階認証・アクセス権設定・通信の暗号化等、利用者が正しく設定をすればセキュリティリスクはとても低いです。
そのことはMicrosoftやGoogleのクラウドサービスを世界的な大手企業や政府機関なども活用していることから明らかです。
社内NASのほうが安全は本当か?
(1) 「理論上の安全」と「現実の脆さ」
「クラウドは怖い」「情報漏洩が心配」といった声もあります。
社内NASは社内ネットワークからしかアクセスできないという特性をもって安全だと語られることが多いです。 確かに理論的にはそうです。
しかし、それはあくまで理論的なものであり、実際の現場を見るとクラウドのほうが圧倒的にセキュリティが高い場合がほとんどなのではないか?と思っています。
どういうことかと言うと、社内NASのセキュリティというのはその会社が実行しているITセキュリティのレベルに完全に依存します。
大企業であれば別ですが、中小の製造業において専門的な知識をもったITセキュリティ人材をどれだけ雇えるでしょうか?
多くの中小企業では、専任の情報セキュリティ担当者を置けず、システム管理者などが他の業務の「ついで」に行われていることがほとんどです。
そのシステム管理者ですら複数人いればいいほうで、たった一人でIT全般を管理しているという会社も多いでしょう。
さらに現実として、中小企業のITセキュリティが“十分に有効”であるケースは稀かと思います。
トラブルが起きていないのは、単に「狙われていない」だけであって、実際に平時からある無差別攻撃以上の、明確に自社をターゲットにしたサイバー攻撃が行われた時、それを防ぎきるだけの対策ができている中小企業はほとんどないのではないでしょうか。
それはおそらく各会社のシステム管理者の方々が一番わかっていることだと思います。この現実から目を背けるべきではありません。
(2) クラウドは「百戦錬磨の要塞」
一方で、MicrosoftやGoogleといった大手クラウドサービスは毎日のように攻撃を受けています。
それでも陥落しないのは、世界中の優秀な技術者が最新の脅威に対応しているからです。
社内NASが「一度も攻められたことのない要塞」なら、クラウドは「百戦百勝の難攻不落の要塞」といえるでしょう。
中小企業がこのレベルのセキュリティを自前で構築することは不可能です。
(3) NASが優れるケースもある
もちろんNASにも利点があります。
大容量ファイル(数十GB級)の高速アクセスや、生産設備とのローカル接続にはNASが適しています。
ただし、金型台帳のような軽量データや社外共有を伴う情報管理には、クラウドの方が圧倒的に向いています。
他社との共有というメリット
社内NASの特徴は、社内ネットワークからしかアクセスできない点にあります。
VPNなどを活用することで限定的に出張中などでもアクセスできるようにすることはできますが、社内NASを使っている以上絶対にできないこともあります。
それは他社との共有です。
自社にある金型は自社の所有物であるとは限らず、部品生産を委託してくださった顧客の持ち物のことも多いです。
顧客の資産である金型の情報については定期的に報告するのが理想です。
従来のやり方の場合には、半年に一度等定期的に台帳をメールで送信するということが行われていたと思います。
しかし、半年に一度共有すればいい、となると、半年に一度しか更新しなくなるのが人間というもので、実際そういう会社が多いのではないでしょうか?
情報のやり取りというのは基本的には多ければ多いほどいいです。
理想的には、更新がある度にその更新情報が相手に伝わるべきです。社内NASだと、顧客はそこに保存されているデータを見たいときに見ることはできません。
しかし、クラウドであれば、共有先に顧客も加えれば常に最新情報を顧客と共有しあうことができるようになります。
常に最新情報が顧客に共有される、となると、ファイルを最新情報に維持するモチベーションが生まれるため、更新の頻度が増えます。
また、一度共有状態にしておけば、ずっとそのまま共有できるので、わざわざファイルを送る必要性がなく面倒がないという点も重要です。
面倒な作業はいずれ行われなくなるので、面倒な作業はできるだけ少ないほうがそれだけシステムとして優れています。
まとめ
社内NASかクラウドか、という議論はこれまでもこれからもずっと続いていくことでしょう。これに唯一の正解はありません。
そもそも、理想的には保存するデータや利用シーンに応じてどちらも利用するべきもので二者択一というものでもありません。
しかし、中小企業、特に製造業の中小企業において、社内NASの偏重が目立つように思います。
社内NASのセキュリティの固さを妄信し、またクラウドを安易に低評価している現場が多いように見受けられます。
しかし、上記に述べてきたように社内NASがクラウドに対して十分に安全だとは言えず、利便性の面でも劣る場面が多くあります。
少なくとも、金型の台帳を管理するのであれば、そのデータの性質から考えても、クラウドのほうが圧倒的に向いているのではないでしょうか。
私たちKANAGATAYAは、今後も、積極的に情報発信を行っていきたいと考えています。
またそれと同時に
「うちではこうやって管理している」という意見や、
「ブログを読んで実践してみたけど、この部分はうまくいかない」などのご意見もお待ちしています。
それぞれの現場の知見を共有・交換し合うことで、よりよい金型管理の形を探っていければと思います。
もし、「こういう話題について書いてほしい」「直接会ってもっと多くの話を聞きたい」「勉強会を開いてほしい、勉強会に参加したい」などのご要望があれば、
ぜひお気軽にこちらからお問い合わせください。

