金型廃却が注目されている背景
昨今、金型の適正管理は製造業において非常に注目されるテーマになっています。
長年、現場では「使っていないのに、なかなか廃却できない」「スペースだけ奪われ続ける」という問題がありました。
しかし近年、政府や公正取引委員会を中心に、金型の適正管理を後押しする動きが急速に強まっています。
特に、経済産業省が公表した「型管理運用マニュアル」や、公取委による下請法運用の強化などの影響により、
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今後利用される見込みのない金型の廃却が、以前よりスムーズに認められるようになってきた
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預かり保管を継続する場合には、保管料を受け取ることが“当たり前”として認識されはじめている
といった変化が、現場レベルでもはっきり感じられるようになっています。
そして実際に何度も廃却を進めてみると、
「捨てるだけ」のように見えて、会社としては意外と面倒な手続きがあることがわかってきました。
そこで今回は、金型を廃却する際にどのような手続きが必要になるのか、
また、会社としてどのような書類を残しておくべきなのかについて、私たちの実務経験も踏まえて整理しておきたいと思います。
金型の廃却手続き=大体、書類の用意
金型を廃却する際の手続きといっても、「実際の作業」そのものは、大抵の会社では「業者を呼んで持って行ってもらう」ということになるかと思います。
当然ですが、その辺に勝手に捨てるわけにはいきませんし、業者さんに持っていってもらうほかないかと思います。
したがって、金型の廃却は、捨てる作業そのものよりも「どのような書類を残しておくか」という点になるのではないでしょうか。
書類がいろいろ必要になる理由
では、なぜそこまで書類を整えておく必要があるのでしょうか。
理由はシンプルで、金型というのは 固定資産として管理されている からです。
固定資産の廃棄は税務にも影響する
固定資産は、取得から廃却までの一連の管理がきちんと記録されていることが前提になっています。
一定の価格以上の固定資産には固定資産税もかかりますし、固定資産の廃棄で損失が出れば利益額にも影響し利益額は法人税額にも影響します。
この管理が曖昧だと、会社社内だけの問題ではなく、税務上の処理にも影響が出てしまいますし、税務署等の監査が入った場合にも説明がつきません。
そのため企業としては、後日、第三者が見ても「確かにこれは廃却されていますね」と判断できる程度の証拠をそろえておくことが求められます。
したがって、金型の廃却手続きとは、実質的には「確かに廃却した」ということの客観的証拠を用意することだと言えると思います。
廃却が決まったら経理部門へも早めに共有
ちなみに、固定資産の廃棄をするという関係上、廃棄することが決まったらできるだけ早く経理部門などにも連絡してあげましょう。
経理上もいろいろ手続きがあるはずです。
金型廃却で実際に必要になるプロセスと書類
では具体的にどのような書類が必要になるのか考えていきたいと思います。
まず前提として、金型の廃却に際して、どのような書類を用意するかについて定めた法律などは特にありません。
そこは各企業が考える必要があります。
ただ、要するに、後日第三者がみて「確かにちゃんと廃却された」と納得してもらえるだけの書類が揃っていればいいわけです。
どういうものがあれば自分ならそう納得できるか、あるいは逆にどういう書類がない場合には納得できないかを考えていけば自ずと必要になる書類については検討がついてきます。
また慣習や実務上のベストプラクティスなどもありますので、その辺も交えながら概ねこういう書類があれば足りるだろうというところを紹介したいと思います。
① 廃却に至る経緯を示す資料(意思決定の証跡)
当然のことながら、捨てる前には、「この金型を捨てましょう」という意思決定がされているはずです。
顧客から預かっている金型であれば、顧客に廃却の許可を取ったはずです。
また、自社の製品用の金型であっても社内で話し合ったはずです。
その意思決定がわかる書類は有用だと思います。
たとえば、顧客に対して廃棄申請書を出して、承諾をメールでもらったという場合には、その廃棄申請書と承諾したことがわかるメールのスクリーンショットなどで十分だと思います。
自社製品用の金型であれば社内の会議の議事録などでも構わないでしょう。
ここで強調しておきたいのは、こういった資料というのは必ずしも正式な書類の形態をしている必要はないということです。
上記のようにスクリーンショットなどでも十分意味があります。
(ちなみに、メールのスクリーンショットを資料とする場合には、送信元、送信先、受信日時、件名、文面などがわかるようなものが望ましいでしょう)
②廃棄業者に関する書類
実際に金型を廃却する場合には、業者を呼んで引き取ってもらうことがほとんどです。
そのため、どの業者に依頼したのかが明確にわかる情報を残しておく必要があります。
また、自社にとっては普段から付き合いのある業者で「ここなら大丈夫」と分かっていても、
顧客からすると、その業者がどのような会社なのかは判断できません。
とくに預かり金型を廃棄する場合、顧客が「適正な業者に処理してもらえるのか」という不安を持たれることもあります。
そのため、顧客に対しても安心してもらえるよう、産業廃棄物の処理を行える会社であることを証明できる書類を用意することが必要になります。
当社の過去の事例だと、顧客から、委託先の産業廃棄物収集運搬業許可証を証明として出してください、と言われたことがあります。
後述のように、金型の引き取りは有価物の買い取りになり、廃棄物処理法上の廃棄ではないことも多いので、産業廃棄物収集運搬業許可証は不要なことも多いですが、
信頼性の証明として要求されることは比較的多い気がします。

画像の出典:行政書士大倉事務所 産業廃棄物収集運搬業許可を申請するには?【新規・更新】
https://www.osaka-kyoninka-daiko.com/sanpai/
(最終アクセス:2025年11月19日)
③実際に廃棄する金型についてまとめた書類
金型を廃棄する際には、
「どの金型を捨てたのか」が後から見ても明確にわかる書類
を用意しておくことが重要です。
廃棄そのものは業者が担当しますが、
会社としては「廃棄の対象となった金型の特定」を正確に残しておかなければなりません。
ここが曖昧だと、
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実際に捨てた金型と記録が合わない
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類似品と取り違える
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顧客から「本当にこの金型を廃棄したのか?」と問い合わせを受ける
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監査で説明できない
といった問題が発生します。
そのため、廃棄対象ごとに「情報をまとめた書類」を作っておくことが、実務上は非常に大切になります。
これも書類の形式は決まっていませんが、概ね下記のような情報が求められるでしょう。
- 金型名、型番、管理番号
誰が見ても特定できるように、その金型を一意に示す情報として、これらの情報が必要になる。 - 製品名(製造していた部品名)、工程名
何の部品を成形・加工する金型だったのか。また、複数の工程がある場合にはどの工程を担当する金型だったのか。 - 廃却日
社内や顧客との意思決定の証拠。 - 写真(外観・型番プレート)
廃棄対象になった金型が実在したことを示すためにも。
④廃却実施の証拠となる資料(引取証明やマニフェスト)
実際に廃棄処理が行われたことを示す書類が必要です。
金型の廃棄は業者を通じて行うことになりますので、その業者が発行する「確かに引き取りました」という書類が必要になります。
この書類については2つのパターンがあると思います。
1つはマニフェスト(産業廃棄物管理票)を利用する場合。もう一つは、業者が発行する引取証明等を使う場合です。
金型の廃却の場合には、後者の引取証明などで足り、マニフェストまでは不要な場合が多いです。
なぜかというと、金型は基本的に鉄でできており、有価物としてスクラップ回収業者等が買い取ってくれるからです。
そのような買い取ってもらえる場合には、廃棄物処理法上、マニフェストを発行しての処理をする必要がありません。
マニフェストは価値がつかない「産業廃棄物」を処分するときに、それが不法投棄されないように見張ることが制度趣旨です。
一方、鉄スクラップ等の価値がつく有価物は、電炉メーカーに持ち込む等、適正に処理しないと回収業者は儲からないわけで、そもそも不法投棄することが考えにくいです。
そのため、金型等の有価物の廃棄の際に、マニフェストを発行した処理を行うというのはマニフェストの制度趣旨にはあまり合致しないと言えます
(ちなみに、有価物の処理にマニフェストを活用することは実務上よくあります。詳しいことは長くなるので割愛します)。
上記のように有価物の処理の場合には、マニフェスト不要であるため、金型の廃却にあってもそもそもマニフェストを発行しないということも普通です。
そのため、廃却実施の証拠としては、回収業者等に引き取られたということを証する引取証明で足りるということが多いかと思います。
一方で、その金型に機密情報が含まれてる等の事情で、どのようなルートで処理されたのかはっきりさせたいという需要もあるかと思います。
そのような場合には、「金属リサイクル伝票」というものを活用することもあります。
これは有価物の処理におけるマニフェストの代替品のようなものです。マニフェストと違い法律上の制度ではなく、また民間団体が管理するものですが、
マニフェストのようなトレーサビリティを確保することはできます。

画像の出典:株式会社中太商店 金属リサイクル伝票
https://nakatai-st.com/pages/64/
(最終アクセス:2025年11月20日)
⑤ 引取時の現物証跡(写真)
証拠を強化するために、次のような写真を残せていると良いと思います。
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トラックへ積み込む場面
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搬出状況
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金型本体の写真
預かり金型の場合、顧客から要求されるケースもあります。
⑥顧客向け廃却報告書(預かり金型の場合)
最後に、預かり金型の場合は顧客へ報告書を提出することがあります。③の書類が自社用であるならば、こちらは顧客向けのものになります。
これも決まった形式はありませんが、概ね下記のような内容になるのかと思います。
内容例:
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金型名称・型番
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廃却に至った経緯
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顧客承認日
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廃棄業者情報
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廃棄日
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写真
この書類の添付文書として、上述したような廃棄業者の産業廃棄物収集運搬業許可証や、マニュフェストなどを添付することになるでしょう。
まとめ:金型廃却は「確かな証拠をそろえる」ことがすべて
ここまで整理してきたとおり、金型の廃却というのは、作業そのものよりも 「どのような書類をそろえて、後から誰が見ても説明できる状態にするか」 が本質になります。
金型は固定資産として扱われ、税務・会計・監査、さらには顧客からの信頼にも関わるため、廃却プロセスを適切に記録しておくことが欠かせません。
実務上、次のような書類が揃っていると、廃却の透明性が高まり、社内外への説明責任も十分に果たせるはずです。
金型廃却で必要となる書類(総括)
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廃却に至る経緯を示す資料(意思決定の証跡)
顧客承認メール/廃棄申請書/社内議事録 など -
廃棄業者に関する書類
産業廃棄物収集運搬業許可証など、業者が適正な業者であることを示すもの -
廃棄対象の金型情報をまとめた書類
金型名・型番・製品名・写真・廃却理由などが整理されたシート -
廃却が実施されたことを示す証拠
マニフェスト(産廃)/引取証明書(スクラップ) -
引取時の現物写真
積み込み場面/搬出状況/金型本体写真など、証拠の実在性を担保 -
顧客向け廃却報告書(預かり金型の場合)
廃却したことを説明する正式な通知。添付資料とセットで提出
最後に:社内でも「廃却書類一式」が揃う運用を目指したい
金型廃却は、工程としては単純に見えますが、
会社として責任を果たすためには「書類の整備」が欠かせません。しかし、これが結構面倒でなかなかきっちりするのは難しいです。
だからこそ、社内でも
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廃却のたびに同じ項目が揃う
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書類の保管場所が明確
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後から見ても迷わない
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顧客へも自信を持って提示できる
こういった運用ができるようになると、廃却作業が格段にスムーズになり、
結果として“金型の適正管理”そのものがもっと健全なものになるはずです。
今回紹介した書類一式を、ぜひ社内運用のベースとして念頭においていただければ幸いです。
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